岩間ひかるです。
この季節になると無性に思い出すことがあります。
それは今から20年前の今ごろに訪れていたモロッコに端を発する出来事。
今まで生きてたなかでも、3本の指に入るであろうピンチ。
当時私は卒業論文を書くタイミングの大学生でした。
モロッコの中東部にあるメルズーガのエリアにある
Hassilabied村にあるオアシスをテーマに調査をしていました。
そのため2回目のモロッコ訪問にして1ヶ月半の長期滞在をしたのでした。
今や夫になっているアリにも調査をたくさん手伝ってもらいました。
長い滞在を終えて夏休みも終わるし、10月に入ってすぐに実施される
卒論中間発表の準備もあるので、9月の中旬ごろにモロッコを発つことにしました。
タンジェから船でジブラルタル海峡を渡る
その時のモロッコ渡航は飛行機代の節約と、ちょっとした冒険心から
私はスペインから船でジブラルタル海峡を渡ってモロッコに入国する手段を取っていました。
そのため、リッサニという砂漠の辺りの街から
モロッコ最北部のタンジェまで夜行バスに乗って確か12時間以上もの大移動。
タンジェ港でチケットを買ったあと、出港の時間まで街をぶらつくことにしました。
時間間際になって港へ行くと、少し様子がおかしい。
というか、激しく混雑している。
チケットを見せると、係員はこの船には乗れない。
次の船に乗ってくれと言う。
またアリと過ごす時間が少しできたと喜んでいた私。
その後に待ち受けるピンチも知らずに・・・
良い頃合いになって次の船がやってきて乗船する。
しかしなかなか出港しない。
私は焦り始めた。
だって、船が到着するアルヘシラスから20時発の夜行バスに乗らないと
翌朝マドリード発の帰国のフライトに間に合わないから・・・
船がようやっと出港したが、バスの時刻に間に合うのかどうか
私は気が気でなかった。
ようやくアルヘシラスに到着。
走ってバス停に向かったが、バスは既に出発した後だった。
私をバスに乗せてください!
日本への帰国のフライトは、明日の午前中にマドリード発。
そのためのバスを逃したことが判明した時点で、搭乗時刻まで残り約12時間。
どうにかしないといかん。
次に考えたのは、モロッコからフェリーで渡ってくる
国際運行バスに乗せてもらうことだった。
モロッコからスペイン、フランス、イタリアなどへ向かう
国境をまたぐバスが海を渡ってくるのだった。
次々やって来るそれと思しきバスの運転手に頼み込む。
たぶん泣きそうな顔をしていたであろう私を見かねて、
側にいたモロッコ人の男の子も協力して尋ねてくれた。
しかし結果は完敗。
国境をまたぐがゆえにセキュリティが厳しくて、
安易に乗降できない仕組みになっていて、私を乗せることはできない。
モロッコ人の男の子へお礼を伝えて、次にどうしようか考える。
スペインで皿洗いでも何でもしてお金を稼いで
帰りのチケットを買い直すか、、、という案が脳裏をかすめる。
まぁ、最悪それしかない。
そう思ったら何でもできる気がした。
そして向かった先はタクシー乗り場。
私をタクシーに乗せてください!
運転手の男性たちが集まっているところへ出向きこう言った
「私をマドリードまでタクシーで連れて行ってください!」
言っておくが貧乏学生である。
バイトで貯めたお金はモロッコ滞在で尽きている。
しかもアルヘシラスからマドリードまで670kmである。
日本でさえタクシーに乗ったことのない私にだって、
どれだけ無謀な注文かは分かりきっている。
クレジットカードを切る気満々で、タクシー運転手にそう頼んだ。
すると意外な答えが返ってくる。
「キミ、それはできないよ」
え?できないとな?
マドリードへ通じる全ての策が完全に無くなった瞬間だった。
今考えたらそのはずだ。
670km先のマドリードまで私を乗せたとして、
帰りはどうなる?
からっぽのタクシーでこんな長距離を帰ってくるなんて、
そりゃあできないに決まっている。
ヒーローたちからの提案
しかし、できないと告げてきた後もタクシー運転手たちは
何か話し合ってくれているようだった。
もちろん私の事情はお話し済み。
マドリード発翌朝の飛行機に乗らねばならぬのだ。
その時すでに、おそらく深夜に差し掛かろうとしていたかと思う。
フッと話し合いの輪が解けて一人がこう提案してきた。
マラガまで行こう。
マラガ空港から明日朝イチでマドリードへ行く便があるから、
それに乗ればキミのフライトには間に合うよ。
分かりました!
ぜひそれでお願いします!
当時はスマホなんて無かった時代。
情報はガイドブックか地元の人からいただくものが全て。
輪の中に居た一人のタクシーに乗せてもらって、
マラガの空港へ向かう。
タクシーは深夜の静まり返った高速道路を走る。
途中にATMでお金をキャッシングし、タクシー代をお支払いする。
空港に到着してからも、運転手さんはチケットの購入を手伝ってくれた。
言い尽くせないほどの感謝があるのに、
昨日からの疲れと眠気と安心感とで身体がいうことを聞かない。
この深い感謝が伝わっていただろうか。
アルヘシラスのタクシードライバーの機転によって
無事に私はマラガからマドリード行きの飛行機に乗って、
日本帰国便のフライトに搭乗することができたのだった。
彼らは私にとって間違いなくヒーローだ。
今だから言えること
いま振り返れば、ツッコミどころ満載。
いやいや、1日前にスペイン入っとかなきゃダメでしょ私!!
まずはそこからだ。
だけど、
とてもありきたりなことかもしれないが
”諦めたらそこで試合終了”(by 安西先生『スラムダンク』)だし、
「助けてください」と自分が声をあげさえすれば、
それに呼応してくれる人が現れる。
こういうことを身をもって感じた経験だった。
この旅最大のピンチを乗り越えた私は
これでやっと家に帰れる、そう安堵していた。
まだピンチが続くとは知るよしもなく。
(ー続く)
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